土方巽「疱瘡譚」展|立たない踊りとシミュレーション

Miyabiレビュー

こんにちは、Miyabiです。

慶応義塾大学アート・スペースにて舞踏家・土方巽の疱瘡譚の展示があったので行ってきました。

土方巽といえば暗黒舞踏だったりジュネだったり三島由紀夫や寺山修司だったり、江戸川乱歩的な世界観を彷彿とさせるイメージ、そして何と言っても写真がいちいちカッコイイ。

とはいえ、86年に没してしまい、僕はそのだいぶ後に生まれたので、実際に生の舞台を観ることができず。

小説家の小説とか画家の絵とかと違って、舞踏家の舞台って保存がきかないから

「気になるけどどうしようもないな~」

と放り投げっぱなしにしていたところに「疱瘡譚」展がやって来たのでした。

土方巽「疱瘡譚」

「疱瘡譚」とは?

まず「疱瘡譚」とは何か?

「疱瘡譚」とは、1972年に土方巽が「東北歌舞伎」として発表した『四季のための二十七晩』という5つの新作で構成された作品のうちの、最初の作品タイトルです。

『四季のための二十七晩』は、68年に行った『土方巽と日本人(肉体の叛乱)』終演から4年かけて完成させた長期公演作品で、その名の通り27晩連続で舞台をし続けたらしく、並々ならぬ何かを感じます。

ていうか、60~70年代ってそういう空気あるよね。

その後の80年代が反動でポップに軽く振り切るのも分かる。

↑YouTubeに映像があったので「こんな感じかー」にお使いください

「疱瘡」とは?

疱瘡っていうのは天然痘のことで、高熱が出て、身体中にボコボコができる伝染病のことです。

世界中で流行り、日本でも奈良の大仏を建てたり、歴史上の人物で「顔にあばたがあった」みたいに言われる人が多くいたりするのも天然痘の影響。

現在では根絶宣言が出ているものの、土方巽が「疱瘡譚」を作ったときにはまだ患者が世界に存在していました。

何より天然痘の影響は文化レベルに及んでいて、天然痘をよけるためのお守りが日本各地に見られるようなこの環境も、疱瘡が舞台テーマになった源流になっているといえます。

展示内容

今回の展示内容は、土方巽が踊っているところをメインに編集された「疱瘡譚」の舞台映像を中心に構成されていました。

ぶっちゃけ生の土方巽が観たかった……

モノクロ映像の土方巽なんてYouTubeでも観れるし、いくらスクリーンで大きく映していても、ちょっと物足りない感はあった。

土方巽さんにはタイムスリップしてもろて。

が、やっぱ土方巽が生きてる時代に生まれてなかったのが悪いってことで。

それ以外は疱瘡譚にまつわるモノや作品があって、それらは歴史資料を資料館で見ているような感覚で面白かった。

何より良かったのは、来場者に配られた冊子

これマジで良い。

ホチキス中綴じ20ページで、

  • 土方巽「疱瘡譚」の解説(2~11ページ)
  • 『四季のための二十七晩』の写真資料(12~16ページ)
  • 「疱瘡譚」使用音楽リスト
  • 1968~1973年の土方巽の関連略年表
  • 参考文献(めっちゃたくさん載ってるので、追加で知りたいとき便利)
  • 今回の展示の作品リスト

がカラーで全て載ってるし、紙質も丈夫で悪くないし、無料(入場料も無料だったし)でもらえたし。

特に最初の10ページにわたる解説は、土方巽をサラッとさわりくらいしか知らなかった僕にとって、土方巽を理解する足掛かりになった

前情報がそんなになくても、冊子を読めば土方巽研究に取り掛かれそうな、そんな感じです。

無料なのすげぇ。

会期終わったけど、言ったらもらえたりしないのかな。

ぜひたくさんの人に見てほしいって思った冊子でした。

「疱瘡譚」感想

Miyabiのドローイング作品

「疱瘡譚」それ自体の感想は、というと、土方巽の身体に対する考え方っていうのが結構ドストレートにくる作品だなぁ、と思いました。

無料冊子の解説に、土方巽は病や老いに憧れを抱いていた的なことが書いてありましたが、「失って、初めてその大切さに気付く」みたいに、病気になって初めて身体の動きについて考える、そんな感じがしました。

実際2020年から色んなとこでアルコール消毒を強いられて、手が荒れに荒れて指紋が消えた経験を踏まえると、「身体」って捉えると「当たり前」で気づかないところに「身体」がある。

2019年までは当たり前に指紋認証でipadのロック解除してたのが、最近はマジで解除してくれない。

それでも指紋がまだ残ってる指を登録し直してる。

身近に引き寄せると、そんな意識が出てきました。

「踊る」っていうと身体的に抜群な動き・止めを期待するけど、「疱瘡譚」は立とうとして立てない、じりじりと転がる、音楽でいうと音程がとれていないのが音楽として意図して演奏されているみたいな、そんな感覚が上演当時にはあったんだろうな。

土方巽のファーストインプレッション

余談です、土方巽を知ったのは「A TOKYO ROMANCE」(Ian Buruma・著)でした。

これはオランダ人の著者が、アムステルダム公演でみた寺山修司の天井桟敷の演劇に影響されて、日本に留学、70~80年代の文化人たちに接触しながら話したりインタビューしたり暮らしたりした経験を書いたエッセイ本です。

黒澤明・唐十郎・武満徹・李香蘭などなどとのエピソードが出てきて頭がパンクしそうになる。

生きてる彼らに会えたって貴重だなって。

読み返してみると土方巽に触れたのは一瞬で、むしろ唐十郎や麿赤児と仲良しっぽくて、僕の土方巽の前情報がペラかったのも、6ページの対談しか載ってなかったからとも言える……かもしれません。

いや、もっと調べよう。

とりあえずこの本はオススメです。

(↑僕が買ったのと表紙が違うけど、内容は同じ)

土方巽でさえ6ページだったから、他の著名な文化人もたくさん出てるし写真もモノクロながら載ってます。

英語で書かれてるけど専門用語が少なくて読みやすい英語だし、何より今はグーグル先生が翻訳してくれるのでけっこうイケる。

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